中央火口丘群とその周辺地域

 阿蘇カルデラ形成後、カルデラの内側には成層火山を主とする多くの火山が成長し、中央火口丘群が形成された。中岳火口近傍を少し離れると、火口近傍の荒涼とした景観とは対照的に、牧草や一部人工林が火山体や周辺斜面を覆う優美な景観が広がっている。

 中央火口丘群とその周辺地域の代表的なジオサイトとして、「中岳火口」、「中岳火口近傍ジオサイト群」、「草千里ヶ浜-米塚近傍ジオサイト群」および「中央火口丘群山麓およびカルデラ内の低地ジオサイト群」が挙げられる。

中岳火口とその活動の特徴

 阿蘇中岳は、活動中の火口を容易にのぞくことができる世界的にみても珍しい火山である。このため、「阿蘇に行く」ことは、すなわち「火口見物」と考えられるほどの観光スポットである。この中岳火口は、東西約400m、南北約900mのほぼ南北に並んだ複合火口からなる。大きくは、北から順に第1・第2・第3・第4火口の名称が与えられている。さらに、第4火口の周囲の地形から、不明瞭ながら、その周辺に第5~第7火口までの名称が与えられている。

 中岳の活動は、古くからしばしば、これらの複合火口内で起こり、活動場所が移動していたことが、古文書の記録や最近の約100年間の観測から明らかである。明治時代以降をみると、主として第1火口が活動し、大正1ト群2年(1923年)より昭和6年(1930年)までは第4火口が活動の中心であった。その後、昭和7年(1932年)9月4日に再び第1火口に移動し、現在に至っている。

 中岳火口の火山活動は、次のような経過をたどる。火口内に湯が溜まるいわゆる「湯だまり」の状態から、土砂噴出を経て,「赤熱現象」(図1)が生じ、その後、多量の火山灰噴出が起こる。また、開口活動時に多量の火山灰を放出するのも大きな特徴である。鳴動と噴石活動が激しくなって、「ストロンボリ式噴火」(図2)がしばらく続いた後に、活動が衰退して「湯だまり」となる。

 湯だまりは、火山活動が比較的静穏な時期に火口内に生じた火口湖で、通常、約50℃から60℃の緑色をした非常に強い酸性の湯が溜まっている。お湯の色は、エメラルドグリーンの神秘的な色にみえるので、観光客には強い印象を与えている(図3)。

 この中岳火口は、阿蘇ジオパークの大きな目玉の一つであり、年間約100万人に上る多くの観光客をひきつけている。

立野溶岩の柱状節理のアップ
火口底の赤熱現象
(図1)
第1火口の火口底の赤熱現象(阿蘇市・南阿蘇村)
第1火口におけるストロンボリ式噴火
(阿蘇市・南阿蘇村)
ストロンボリ式噴火
(図2)
第1火口におけるストロンボリ式噴火 (阿蘇市・南阿蘇村)
中岳火口の「湯だまり」(阿蘇市・南阿蘇村)
中岳火口の湯だまり
(図3)
(阿蘇市・南阿蘇村)

中岳火口近傍ジオサイト群

 中央火口丘群のほぼ中央部に位置する中岳は、現在も活動している火口を有し、火山ガスや火山灰などの影響で、火口周辺は植生の乏しい荒涼とした裸地または半裸地が発達しており、活火山特有の現象が数多く認められるジオサイト群を形成している。

 中岳火口のすぐ南東に接する砂漠状の景観を示す砂千里ヶ浜や、中岳東展望台から望める中岳・高岳山頂付近の荒涼とした景観、種々の火山噴出物は、火山と大地の営みを実感できるきわめて貴重なジオサイトである(図4・5)。

中岳火口とその近傍(阿蘇市・南阿蘇村)
中岳火口近傍
(図4)
(阿蘇市・南阿蘇村)
阿蘇中央火口丘ジオツアーの様子(阿蘇市)
ジオツアーの様子
(図5)
阿蘇中央火口丘ジオツアーの様子(阿蘇市)

草千里ヶ浜-米塚付近ジオサイト群

 草千里ヶ浜-米塚近傍ジオサイト群には、「草千里ヶ浜展望所」、「杵島岳」、「往生岳」、「上米塚」、「米塚」、「溶岩トンネル」などがある。これらの地域の景観は、火口近傍の荒々しさとは対照的になだらかで優美な景観を提供する。米塚(図6)は、きわめて均整のとれたスコリア丘であり、上米塚ではスコリア丘の断面をみることができる。烏帽子岳の北山腹に生じている草千里ヶ浜(図7)は、直径およそ1,000mの広々とした草地で覆われ、北方にそびえるスコリア丘である杵島岳、往生岳とともに、阿蘇中岳周辺と並ぶ阿蘇を代表する観光地である。草千里ヶ浜展望所からは、高野尾羽根火山および立野峡谷(火口瀬)など、カルデラ西部の地形を観察でき、遠くは金峰火山や島原半島の雲仙普賢岳も望むことができるきわめて貴重なジオサイトである。

米塚(阿蘇市)
米塚
(図6)
(阿蘇市)
草千里ヶ浜(阿蘇市・南阿蘇村)
草千里ヶ浜
(図7)
(阿蘇市・南阿蘇村)

中央火口丘群山麓およびカルデラ内の低地ジオサイト群

 中央火口丘群の山麓部およびカルデラ内の低地は、きわめて広大な地域であり、火山体、溶岩流、カルデラ床を構成する堆積物などの多様なジオサイトが散在する。

 主なジオサイトとしては、「池の窪」、「鮎返りの滝」、「数鹿流ヶ滝」、「立野峡谷」、「阿蘇黄土」などが挙げられる。個々のジオサイトは、地学の広い側面と要素で成り立っており、阿蘇火山の構成の多様性と複雑さを学習するためには欠かせない貴重なジオサイト群である。